「イデオロギーという呪縛」
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2001年4月7日
小宮悦子さんの後を受けて、今週からこの欄を担当することになりました。よろしくお願いします。
「新しい歴史教科書をつくる会」が編纂した教科書が137カ所に及ぶ修正をへて、検定に合格しました。戦後の歴史教育を「自虐史観」と断じる人々が書いたものだけに、今までよりはるかに日本の歴史を「賞賛」する箇所が多くなりました。もちろん韓国や中国は、この教科書にいつものごとく「不快感」を表明しています。でも本質的な問題は、この教科書が「右寄り」であることではありません。
すでにイデオロギーの対立の時代が終わって10年という歳月が流れています。それなのに、「つくる会」が「日本の歴史教育を正す」として、またイデオロギーを持ち出してきたところにあります。「自虐史観」も「つくる会」も、いわばその呪縛にとらわれ続けているものだということができます。歴史を学ぶということは、過去の「事実」を覚えることではありません。「事実」そのものがあいまいなことも多いからです。それよりも、歴史の流れをどのように考えるか、一人一人が築くことのほうが大事なことです。人類は「歴史に学ぶ」ことができるからこそ、新しい社会の形を築くことができます。いま私たちが暮らしている民主主義もそういう歴史の産物です。
戦争が終わって半世紀以上。もうそろそろ呪縛から自分を解き放っていいときではないでしょうか。