「なかったことにしてくれ」
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2001年4月21日
台湾の李登輝前総統が、日本に心臓病の治療に来たいとしていた問題で、日本政府はすったもんだの末、やっと条件付きでビサを発給することを決定しました。
政府の対応のなかで、いちばんみっともないのが外務省。中国との関係に配慮して、ビザを出さないばかりか、「ビザの申請はなかった」という姿勢に終始しました。こうした問題は、大きくなればなるほど、どの国(と地域)も建前論に固執するものです。先の軍用機衝突事故で、米中が国内の反応を気にしつつ、結局はレターで「ソーリー」と「ベリー・ソーリー」と2回書いたのを、中国側が拡大解釈して「謝罪した」と国内に喧伝して乗員を解放しました。
どのような問題であれ、建前で突っ張ってこられたら、こちらも建前で突っ張らねばならないものです。そこから外交交渉が始まっているわけです。今回も、日本の教科書問題で日中間にある種の緊張感があり、そこに米中の関係が悪化したという状況でした。これ以上こじらせたくないという気持ちはわかりますが、台湾の引退した政治家が病気治療に日本に来ることには「政治的な意図はない」という突っ張り方はあったと思います。
どうも「臭いものにはふた」というか、日本の役所には「事なかれ主義」が蔓延しているように思えます。外務省の公金横領事件も、この「見て見ぬふり」に一つの原因があったのではないでしょうか。もちろん「なかったことにしてくれ」という判断も一つの判断ですが、それだったら少なくとも数ヶ月、できれば数年は表に出ないという前提がなければならないでしょう。すぐバレるような嘘は、決してついてはいけないのです。それは家庭でも、会社でも、政府でも同じことでしょう。