「イチロー、今日は打った?」
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2001年5月26日
イチローがすごいですね。23試合連続ヒットとか盗塁でリーグ1位とか。でもいちばんすごいのは日本のメディアですね。とにかくイチローと新庄に張り付きっぱなし。ゾロゾロ群れをなしてくっついている様は、あまり見よいものではありません。
もちろん日本人のプロ野球選手が本場アメリカで活躍するのを見ると胸がスカッとします。野茂のときもすごかったし、佐々木も期待通りの活躍をしています。でも毎日毎日ほとんどすべてのニュース番組で「今日は何打席何ヒット」と報道するのはいかがなものでしょうか。
スポーツ専門の番組や新聞が毎日、成績を報道することと、あらゆるニュースで毎日報道するのはわけが違います。イタリアに渡ったサッカーの中田のときも、出場すると必ずニュースに流れています。たしかに全国民的な関心事でしょうが、そこに目を奪われすぎると、ほかにも地味なスポーツで世界的に活躍している選手のことがどこかに置き忘れられます。それだけでなく、もしイチローが打てなくなったら、手のひらを返したように無視されるのを見るのが嫌なのです。
どうもメディアに、「日本人が、日本人が……」という感覚が含まれているように感じます。プレーしている選手自身は、別に日の丸を背負っているつもりはないでしょう。イチローにしても、再三「すごい選手がいるところでやってみたかった」と語っているし、野茂もかつて「日本人だからどうということはない」と言いました。
つまり彼らはプロとして自分の力を試してみたかったのであり、動機はいわば個人的なものです。そこにわれわれが日の丸を勝手に投影しているのにすぎないのではないでしょうか。むしろ海外に飛び出していく選手に、僕自身は昔の悲壮感が漂う日本選手ではなく、もっと自分の技に自信をもった「個人」を見たいと思うのです。グローバル化ということは、国境を越えるだけでなく、実は国籍をも超えてしまうものだと思います(良いことか悪いことかは別の問題です)。ところで今日はイチローは打ったのですか?新庄は?誰かテレビをつけてくれない?