税制改革で見直される日本の「所得再配分」
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2002年1月19日
政府の税制調査委員会が2003年度からの税制改革に向けて動き出しました。税金といえば、私たちの生活に直結する問題です。日本の政府や地方自治体の借金の累積額が実に666兆円(日本の国内総生産の1.3倍)もある実態に照らせば、何らかの形で増税することは避けられない状況でもあります。
この税制改革で大きなポイントは、おそらく課税最低限の引き下げでしょう。現在、夫婦2人、子供2人というサラリーマン家族は、年間約354万円まで課税されません。国民の4人に1人が税金を払っていない計算ともされています。
この課税最低限は、主要国の中で最も高い水準にあります。たとえばアメリカは日本円換算で約160万円、イギリスでは約83万円、ドイツは日本と同じ約359万円、フランスは約283万円となっています。もちろん税金はこれだけではなく、地方税があったり、消費税があったり、また税金ではないものの健康保険制度の違いなどもあり、一概に比較することはむずかしいのです。
税金は、ある意味で「所得の再配分」という意味をもっています。それは収入の多い人からたくさんの税金を取り、収入の少ない人からは少なく徴収するというものです。それがいわゆる累進税なのですが、これが行き過ぎれば、一種のモラルハザードが起きます。仕事を頑張って収入を増やそうという意欲が薄れれば経済に悪い影響が出るでしょうし、働かなくても暮らせるということになれば、働く意欲が薄れるでしょう。近年、欧州でいわゆる社会民主主義の政党が選挙で負けているのも、これまでの高福祉高負担という制度にやや無理が来ているからです。
日本は、課税最低限でも累進税率でも、先進国の中では最も所得再配分が進んでいる国です。つまり上に厳しく、下に厚い税制になっています。これを少し修正しようというのが、この税制調査委員会で大きな話題になるでしょう。それと同時に消費税率の引き上げも大きな検討課題になると思われます。
そうはいっても、引退した国税局幹部が脱税していたり、国会議員秘書が脱税していたりと一般国民にしてみれば呆れるような事件が多いのも事実です。あるいは国の税金の無駄遣いも、仔細に点検すればおそらく数千億円という規模に達するでしょう。このような問題を解決しないまま「増税」といわれても、おそらく相当の反発が出ると予想されます。
しかしたとえそういった問題を改善しても、とにかく税収を増やすためにありとあらゆる手段を取らなければならないのは事実なのです。そうでなければ国の過大な債務を解消できないからです。現在は支持率の高い小泉内閣ですが、この増税という問題が提起されても、みなさんは小泉さんを支持しますか?