失望してますか?
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2002年2月23日
田中真紀子さんと鈴木宗男さんの「子供のけんか」から始まった騒動は、鈴木さんのODA(政府開発援助)疑惑という「大人の事件」に発展してきました。外務省の内部文書を共産党が入手し、それが衆議院予算委員会で追及されたのがきっかけです。
ODAとは政府が資金を途上国に援助し、それでその国が道路、鉄道、ダムなどのインフラを整備するものですが、その工事はほとんどの場合に日本企業が受注します。そこに政治家の「口利き」が入り込む利権の構造が以前より指摘されていました。このODAの年間予算は1兆円前後ですから(なんと日本は世界最大のODA大国なのです)、利権構造をつくってしまえばおいしい資金源になるわけです。
この問題は徹底的に解明されなければなりませんが、実はこういった疑惑は鈴木さんにかぎらず、以前から言われていたことなのです。もちろん自民党の全部が全部腐敗しているわけではありません。しかし政治家が票と金を求める以上、そこにつけ込んで利権の構造からうまい汁を吸おうとする人たちがいます。そして犯罪になるかならないか、結構危ない橋を渡るのです。
政権党とは、実際に予算を動かすわけですから、こういった腐敗の構造を招きやすいものです。だからこそ健全な政権交代が必要だとされるのです。お隣の韓国は、大統領が代わると前の大統領が絡んだ汚職が摘発されるのが「恒例行事」のようになっていますが、日本は残念ながら政権党の交代がないために、自民党はそのあたりに鈍感になっているといえます。
英国の雑誌「エコノミスト」とアメリカの雑誌「タイム」が今週は日本を特集しました。「エコノミスト」は辛口で知られる雑誌ですが、「日本の国民は失望することを知らないようだ」と書いています。つまりこれだけ経済運営に失敗し、改革も実現していないのに、いまだに自民党を支持するとは理解しがたいというわけです。
汚職事件が起きたあと、再び選挙に出馬し、当選すると「みそぎを受けた」などと言って元の地位に戻ってしまったりするのはなぜなんでしょう。そういえば田中さんのお父さんも「獄中選挙」なんてやったんでしたっけ。どのような政治家であれ、結局は選挙民が選ぶものです。つまり有権者が最終的には責任をもつというのでなければ、民主主義は機能しないのです。
「私一人が声を上げても世の中は変わらない」と書いてこられる人も多いのですが、その積み重ねでしか世の中を変えられないのも事実です。私の友人の中には「革命だ」と騒ぐ人もいるのですが、これはあまり現実味がありません。
小泉改革が本物かどうか、誰が日本をよくしてくれるのか、じっくり見極める必要があります。そして私たち有権者が政治的にもっと成熟しないと、これから訪れる危機を乗り切ることはむずかしいと思います。それとも、こんな日本にもう愛想をつかして「日本脱出」をしますか。みなさんのご意見を聞かせてください。