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【続き】
そのことに気付いた途端、たまらなく悲しくなった。去年までの誕生日が次から次へと思い出される。朝から母はニコニコして、父は「プレゼントには何が欲しいか」と聞いてくれた。姉が自慢のケーキを焼いてくれたこともあった。エージェントロボットは真っ先に「Happy
Birthday To You!」の歌を歌ってくれたっけ。それに、それに去年は、アユミちゃんがサッカーボールの形のクッキーを焼いてくれたんだ……。
涙がこぼれた。世の中に見放された気がした。これじゃまるで、無人島でひとりぼっちの誕生日を迎えたみたいだ。追い討ちを掛けるようにポツポツと雨が降り始めたころ、タケルは家に帰り着いた。
バイオメトリクスを通過して玄関へ。朝と同じように、いつもなら「オカエリナサイ!」と迎えてくれるエージェントロボットは無言。家の中が、やけにしんとしている。シャツの袖で涙をぬぐい、冷蔵庫の牛乳を飲もうとした途端、
「こらあ! 直接クチをつけて飲むなって、いつも言ってるでしょ」
声のほうに振り向くと、ソファの陰から笑いをこらえていた、ミカが顔を出す。続いて、隣の部屋から、大きな箱を抱えたリョウイチと、ケーキをうやうやしく掲げたカオルが登場する。
「タケル、誕生日おめでとう!」
「10歳、おめでとう!」
「今朝はごめんね。みんな、わざと早くうちを出たの。エージェントロボットも何も言わないように設定しておいたし」
そして、玄関のチャイムが鳴り、アユミちゃんとユウタも来てくれた。
みんなが仕組んだサプライズパーティ。
タケルの10歳のバースデーは、決して忘れることのない一日になった。