スケート選手の言葉(2002年8月16日)
出張勝也(でばり・かつや)
株式会社オデッセイ コミュニケーションズ代表取締役社長
「筋肉だけを破壊し再生させ進化させても、同時に、筋肉を支配する脳も変容させてなければ意味がない。(中略)辛いトレーニングは脳も変容させるので、筋力の限界を押し上げることになるんです」(清水宏保)
週末に『神の肉体 清水宏保』という本を読みました。スピードスケート500mにおいて、98年の長野オリンピックで金メダル、今年始めのソルトレーク・オリンピックで銀メダルをとった、あの清水選手について書かれた本です。僕はこの本を読んで、清水選手の偉大さを知りました。
彼の素晴らしさとして、オリジナリティーにあふれた訓練方法、目標設定の方法、目的達成までのプロセス管理、意志力など、多くをあげることができます。さらに僕の興味を引いたのは、清水選手が大学時代、医学部の解剖学の授業も取り、人間の能力を脳のレベルで捉えようとしていることです。最初に引用した言葉は、体で覚えるだけではなく、体をコントロールしている頭(脳)のレベルにまでインパクトがある訓練を行っていかないとダメだということです。訓練のやり方によっては、DNAさえも変えることができるということでしょうか!?
さて、スピードスケートの話と、英語の話がどのように結びついてくるのか……
清水選手の話の中には外国語習得にも当てはまる、多くのヒントがあります。よく「脳が英語を受け付けない」とか、「英語の頭」をつくるというような言い方をしますが、英語を習得していくプロセスは、本来ならその一部には含まれていない外国語である英語を、体の一部である手(ライティング)、耳(ヒアリング)、口(スピーキング)、目(リーディング)、など可能な限りの感覚を利用しながら、脳の中にすこしずつ注入していき、「英語の脳」を作っていく過程なのではないか。脳のレベルに英語の要素を根付かせていき、それらをより体系だったものとしていくことができれば、少しずつ「英語の脳」ができあがっていくのではないでしょうか。
いまさら外国語の習得には訓練が必要だということを聞かされても、うんざりするという反応が目に浮かびますが、残念ながらそれ以外の方法は僕には思い浮かびません。未来には、電気療法などで脳に刺激を与えて、「英語の脳」をつくることができるようになるかもしれませんが……
引用:『神の肉体 清水宏保』
著者:吉井妙子 出版:新潮社 ISBN:4104530018 発行年月:2002.4 本体価格:\1,300