日本版「セサミ通り」はいつできるのか?(2002年9月13日)
出張勝也(でばり・かつや)
株式会社オデッセイ コミュニケーションズ代表取締役社長
アメリカの子ども向け教育テレビ番組「セサミストリート」が日本で放送され始めて30年ほどになります。このサイトの読者の中にも、セサミストリートのファンの方がいらっしゃるでしょう。僕も中学生から高校生だった70年代半ばには、英語に接するためにセサミストリートを見ていました。
僕のような40代の人間が親になり、その子どもたちがまたセサミストリートを視るというように、日本において、セサミストリートのファンは、2世代にわたろうとしています。これだけの長期にわたって番組を放送してきたNHKは、高く評価されるべきだと思っていますが、日本におけるセサミストリートの位置づけに関しては、根本的なところで納得できない点があります。
セサミストリートは、世界100カ国以上で放送されています。多くの国ではセサミストリートの国内版(Sesame Workshopと現地放送局の共同制作)が作られています。共同制作版のセサミストリートは、その国独自のマペット(人形)を加えたセサミの人形たちが、それぞれの国の言葉で、現地の子どもたちにとって関心の高いトピックを取り上げています。
アメリカのSesame Streetでは、これまでも人種問題を含めた社会問題が子どもにもわかる言葉で押さえられています。最近では南アフリカ版のセサミストリートの中で、HIVにかかった人形を登場させることになったことが、日本でも紹介されました。「セサミストリート」は、アメリカのSesame Streetだけでなく、それぞれの国に子どもをめぐるユニークな環境がある限り、それぞれの国の「セサミストリート」がありえるのです。
しかし、日本においては、アメリカ版のSesame Streetが英語教育番組としてそのまま紹介され、アメリカ社会を知るための一つの「窓」とされてきました。これはセサミストリートを制作しているSesame
Workshopの希望とは異なると思われます。彼らの希望は、「セサミストリート」という方法論を採りながらも、内容的には日本の子どもたちにとって大切で、必要なトピックが取り上げられ、結果として日本の子どもたちにとって楽しい教育番組が作られることです。
考え、学ぶにはまず身の回りからスタートすることです。日本にも多くの社会問題がありますが、それらに関して子どもに目隠しをすることは、大人の役割ではありません。人種問題はアメリカだけの問題ではなく、日本国内にも在日の子どもたちがいます。他にも、帰国子女、いじめ、教育崩壊、家庭内暴力など、さまざまな社会問題があります。子どもたちの将来を真剣に考えるテレビ関係者によって、いつか日本の子どもたちのための「セサミ通り」が作られることを心から希望しています。