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第8回 西本智実さん
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良き「馬の乗り手」となる |
進藤 |
メンバーの気持ちを理解するために、必要なことはなんでしょう。 |
西本 |
まずは自分の未熟さを知ることですね。 |
進藤 |
未熟さ? それはつまり、キャリア面でということですか? |
西本 |
いえ、キャリアとは関係ありません。音楽に限らず、こういうポジションになると決断を迫られるわけです。そのときに、自分が楽な方向や、自分を誇示するための方法を選んだら、そのときはもう終わりだと思うんです。あるいは、気づかずにそうしているときも終わりだと思います。だから、まず自分を持っているということが絶対条件です。指揮者というのは馬の乗り手のようなものですから。 |
進藤 |
後ろで手綱をキュッと持っている感じですか。 |
西本 |
馬が、気がつかないうちに右に曲がっていた、左に曲がっていた思えるような乗り手ですね。逆に「はい、右。はい、左」とムチでピシピシたたいてしまうと、ストレスを感じて、できるものもできなくなってしまうでしょう?
もし、仮に馬がダメだったとしても、「この馬が悪い!」ではなくて、行きたいほうに走らせられないわたしが未熟なんだと思うんです。乗り手が良かったら、この馬はイケるんだって信じなきゃだめです。 |
進藤 |
信じることが大事なんですね。 |
西本 |
信じることは怖いことなんです。本当に暴走しますから。だから、こちらが振り落とされないくらいは締めつける必要はあると思いますよ。「多少のストレスは我慢してね」って言いながら。 |
進藤 |
手綱をつかみながら、演奏会本場に向かって準備していくわけですね。西本さんの本場までの作業としては、どんなことを積み重ねていくんですか? まず、演目が決定しますよね。どこで何を演奏する、と。 |
西本 |
初めての演目ときもあるし、もう何十回も振った曲になることもあります。初めての曲のときは、楽譜を世界地図を見るような感じで、ちょっと離れたところから曲全体を見るんです。ぱらぱらと譜面をめくって、ああ、ここがこうなんだなと、だいたいを把握します。
わたしの癖としてまず、楽譜の最初と最後を見るんです。クラシックって、ものすごく制約のある音楽だから、見るとだいたいわかるんです。
次に曲を分解します。楽譜を理解することは、たとえば時計を分解するようなものです。ネジを外すとこうなっていて、あーこの組み合わせがすごいとか、感動しながら読み解いていくんです。そうしている間に、作曲家の偉大さを知ってしまうんですね。全部分解したあとはもう一度、組み立てて、元の時計に戻す。そしてもう一度、全体を見渡すんです。すると、最初に見た時計とは全然違うものとして感じられます。 |
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