特殊法人改革「抵抗勢力」の中身
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2001年9月8日
小泉内閣の目玉の一つである特殊法人改革について、各省庁の回答が出てきました。答えは、案の定ほとんど「ゼロ回答」、つまり廃止や民営化はむずかしいというものです。焦点になっている国土交通省の道路関係4公団や住宅金融公庫、都市基盤整備公団に関する回答は20日に延ばされました。
いかに首相が大号令をかけても、役所はなかなか動かないものです。なぜなら首相はコロコロ代わるけれども、官僚組織はそうではありません。政府として政策に一貫性が必要だとすれば、それを保証するのは役所である、そういう「自負」が役所にはあります。
そういった「自負」は原則的には正しいのです。実際、戦後日本経済の奇跡は、官僚組織による政策目標がなければありえなかったかもしれません。しかし問題は、政策には常に「一貫性」が必要かどうかなのです。もちろん政府の方針が行き当たりばったりでいいはずはありません。しかし政策が時代に合わなくなったときには、果断に船の向きを変えなければ氷山にぶつかって大損害を被ることにもなります。
目の前に氷山が迫っていれば、それは誰が見ても明らかな危機ですけれども、一国の運営ともなれば「明らかな危機」などほとんどないのが普通です。だから一方で針路を変えようとする人がいて、一方でそのままの針路を守ろうとする人が出ます。
官僚組織は継続的であることに存在意義をもっていますから、その意味では本質的に「守旧派」です。そして「族議員」と呼ばれる個別省庁の政策に詳しい議員も、事情に通じているだけに(場合によっては利権に絡んでいるから)守旧派になりやすいのです。
いまは、しかし、一貫性そのものが国民にとんでもない負担をもたらしつつあります。たとえば道路公団は、実に25兆円もの借金を抱えています。国の年間税収の半分にあたる金額です。民間企業であれば永遠に赤字を垂れ流すわけにいきません。しかし国が金を融通してくれる公団であれば無限に赤字でも存続できてしまいます。
日本の政府や自治体はすでに666兆円におよぶ債務を抱えています。だからどうしてもこのあたりで歯止めをかけざるをえません。いかに継続性や一貫性を盾にした反論が出てきても、それを説得して(時には無視して)断行しなければなりません。何と言っても「船長」がそう命令しているからだし、その船長はわれわれ有権者が間接的とはいえ「選んだ」船長だからです。