日本政府ができること
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2001年9月22日
アメリカのテロに関して先週も書きました。鋭いご批判やご意見もいただきました。今週も引き続きこの問題について書いてみたいと思います。事件の重要性もさることながら、日本でも自衛艦が出動することになっているからです。
アメリカの報復活動に対する支援を目的とするこの自衛艦の出動は、国権の発動である戦争を永久に放棄することになっている日本国憲法に違反する可能性が十分にあります。もちろん政府は「情報収集活動」として自衛艦を派遣するのですが、これは現行法規の範囲内でやるための「方便」であると言っていいでしょう。
しかし一歩下がって考えてみると、今回のテロ事件で数千人のアメリカ市民が犠牲になるのと同時に、数十人の日本人も犠牲になっています。日本の国民が外国の地でテロによって「殺された」のです。
そのようなとき、いったい政府は何をしてくれるのでしょうか。自国の市民の安全を守ること、それは国の大きな役割の一つです。私たちは個人の権利を保証されること、安全を守ってもらうことの見返りに国に税金を払う義務を負っています。
このテロを未然に防ぐことはできなかったにせよ、日本国民に犠牲者が出た以上、日本政府は何らかの手を打たなければなりません。ではどんな手段が可能でしょうか。パキスタンに対する経済制裁を緩和するなどの、経済的な「テコ」を使って望ましい政策を取らせるのもその一つです。
それが外交なのですが、それ以上ということになると、後は外交の延長線上にある軍事力の行使ということになります。もちろんそれは憲法違反です。でもわれわれ日本人は、軍事ということに対してこれまであまりにも「理想主義的」になってはいなかったでしょうか。
絶対的な平和というのはすばらしいことですが、実際に平和や安全が脅かされたときにどのような行動を取れるのか、あるいは取るべきなのかという考え方を脇に押しやってきた感じがします。戦争すれば平和になるわけではありません。報復が報復を呼ぶという言い方にも、とても説得力があります。
それでも、日本の市民が殺されたのは事実です。これは事故ではないのです。アメリカがテロの後、急に結束を強めたのを見て、違和感を覚えた人も多いはずです。あのような社会がいいか、それとも日本のような社会がいいか、簡単に比較することはできないけれども、皆さんはどう思われますか。