日本再生の鍵は移民の受け入れにある
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2002年6月1日
金曜日の新聞に興味深い小さな記事が載っていました。EU(欧州連合)が発表した「社会状況報告」の記事です。この報告書によると、2015年までにEUの大半の国で人口が減少傾向に転じるそうです。「移民受け入れを倍増させ、出生率が2倍になっても、安定的な労働人口や年金制度を確保することは難しい」と指摘しています。
2000年にEUで合法的に受け入れた移民は68万人だそうです。日本では就労を目的とする在留者でもわずか12万人程度。移民となると本当に微々たるものです。総労働力に占める外国人の割合でいうと、ドイツあたりで9%、イギリスでも3.6%ですが、日本は0.2%にしかすぎません。
つまり日本は移民に対して相変わらず「鎖国的」なのですが、これで国として維持できるのかどうかが問題となっているのです。もちろん現在の日本は景気も悪いし、失業率も戦後最悪の水準。こんな状況の中で、外国人労働者はもちろん、移民の受け入れなどとんでもないと思われる人も多いかもしれません。
しかし問題は、労働力だけではないのです。現在、日本は深刻な「年金危機」に直面しています。危機の本質は、老齢者に支払う年金を支える若年層が減っていることです。急速に老齢化する日本がどのような対策を打てるのか、これは世界が注目している問題でもあります。今のところ政府は有効な対策を打ち出せていませんが、この問題は否応なく日本人に迫ってきます。
根本的な解決策は、若年層を増やすしかありません。出生率を上げるように努力するのが筋でしょうが、効果が出るには時間かかります。それに現在の少子化傾向を逆転させるのは、働く女性が増えているなかではなかなか大変でしょう。即効的に解決するには、移民を増やすことしかありません。中国や東南アジア、中近東など、日本に職とチャンスを求めたい人はたくさんいます。彼らを労働力として受け入れ、さらに定着したい人には国籍を与えて、税金と年金を払ってもらえば危機を回避できるかもしれません。
この問題に関して私たち一般国民はどうでしょうか。年金問題に何となく不安を感じながらも、実はあまりよく考えてもいないし、まして移民を受け入れれば犯罪が増えるし、ややこしいというぐらいの感じしか持っていないのではないでしょうか。アメリカの犯罪発生率が高いのは移民のせいだと考えている人も多いかもしれません。
しかしアメリカは、日本が景気低迷に苦しんだこの10年間、好況を謳歌してきました。その活力は、やはり移民から生まれているのではないでしょうか。世界史的に見ても、人口が減っている国で繁栄を享受した国はありません。日本が年間に何十万人かの移民を受け入れる決断をするかどうか。老衰しやがて死に至る国家となるか、あるいは再び若さを取り戻すかどうか、わたしたちはその岐路に立っているような気がします。みなさんにお尋ねします。もしもあなたの隣に外国人が住んだら、やっぱり嫌ですか。