「反米」で済ませていいのか?
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2002年9月14日
アメリカ不信
ブッシュ大統領が国連総会で演説をし、イラクの大量破壊兵器に対する危機感を訴えました。そして国連による査察、査察が受け入れられない場合の対処、そしてもし国連が動かないならばアメリカ単独での攻撃も辞さないという考えを示しました。
ブッシュ政権がある意味で強引に進めようとすればするほど、アメリカ以外の国では反発が高まっています。日本でも、ある有力月刊誌が「アメリカ不信」という特集を組みましたし、ニューズウィークの記事やコラムに対しても読者から「アメリカ一国支配」に対する反論が寄せられます。
たしかに昨年の9.11テロ以来、アメリカでは愛国主義的な雰囲気が高まっていました。アフガニスタンのタリバン政権、そしてテロ組織アルカイダを壊滅させるための攻撃を国民は圧倒的に支持しました。ブッシュ大統領の支持率も歴史上類を見ないほどの高さになりました。
このような雰囲気は外国から見ると、ちょっと理解しがたいものだったかもしれません。しかし北朝鮮のテポドンが飛来した時の日本はどうだったでしょうか。朝鮮学校の高校生が嫌がらせをされたり、さらにテポドンの脅威に対抗するための査察衛星をもつという案があっという間に国会を通過したのではなかったでしょうか。
つまり攻撃を仕掛けられた国は、ある意味ですぐに「一致団結」するものなのではないでしょうか。ただ日本は北朝鮮を攻撃しようとは言いませんでした。平和憲法もあるし、戦争に対しては日本国民はきわめて根強い反感をもっているからです。しかし同時に、日本の自衛隊が地上攻撃能力(爆撃できる飛行機とか、軍を上陸させる輸送手段)をもっていないということも大きな理由でした。
アングロ・サクソンのスタンダード
アメリカは、いま世界で唯一といっていいほど、そうした能力をもっています。だからこそ世界は、アメリカに「世界の警察官」をやってほしいと思っているわけです。現に、世界の危険な紛争地帯にでかけていくのはほとんど米軍です(ある程度紛争が収まったら平和維持軍という形で国連から出しますが、戦闘が行われているような地域にはほとんど米軍を主力とする軍隊が出ていきます)。
アメリカは、自分たちの自衛のためには相手を攻撃するというオプションをもっている国なのです。かつてのソ連もそうでしたが、アフガニスタンへの侵攻で失敗し、事実上軍事力の優位性を失いました。ロシアが、アフガニスタン周辺国に米軍を駐留させたのは、そうした軍事バランスの変化を如実に示すものといえます。
国際政治でアメリカが絶大な影響力をもっているのと同じように、経済でもアメリカは圧倒的な影響力をもっています。今はIT(情報技術)バブルがはじけて、ちょっとおかしくなっていますが、日本のように10年以上も低迷する可能性はほとんどないでしょう。それもアメリカ以外の国にとってはおもしろくないところなのです。
たとえば企業の国際化が話題になったころ、日本ではグローバル・スタンダードという言葉が流行りました。そしてそれは要するにアングロ・サクソンのスタンダードであり、それに日本があわせなければならない理由はないという反発もあったのです。しかし日本が鼻高々だった1980年代の後半は、日本的経営こそ世界で最も優れた経営であると豪語していたのは、われわれ日本人だったのです。
正すべきは正す
その当時アメリカは、日本の資本がアメリカの企業を買収したりするたびに、日本がアメリカを買い占めるといった記事が多く出たものです。つまり世の中は動いており、局面が変わるたびに、あちらこちらで摩擦が起きるのは自然なことだと思います。
ですからここでアメリカに対していたずらに反発するのではなく、理性的にアメリカをチェックすることが必要だと思います。実際、最近の対米感情の悪化を受けて、アメリカ人は少しですが人の意見に耳を傾けるようになったとも聞きます。
だから日本は、ただわれわれの国益を主張するだけでなく、世界がどのように平和や繁栄を享受できるのか、理をもって話さなければなりません。正すべきは正す、という毅然とした態度が、やがてはアメリカも説得することになります。そのために、日本も世界平和のために何を負担するのか、覚悟を決めなければならないでしょう。それが世界第2位の経済大国の責務です。その覚悟なしにアメリカを批判しても、アメリカを説得することはできないと思います。