将来に回すのは「希望」それとも「ツケ」
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年1月11日
日本の2003年はどんな年になるのかなと思っていたら、新年早々おとそ気分を吹き飛ばすような話が飛び出してきました。消費税を毎年段階的に引き上げて16%にしようという提案が経済界から出てきたのです。現在5%ですから3倍にしようという話なのですが、景気が低迷している現状を考えると「なぜ今?」と思う人も多いでしょう。
サラ金地獄の日本経済
日本の財政が破綻に直面していることは事実です。年間GDP(国内総生産)の1.4倍にも上る公的債務(国と地方自治体の借金の総額)は先進国中最悪。年間予算70兆円あまりのところを30兆円を超える国債(国の借金証書)を発行するというのは、どう考えてみてもかなりの重症でしょう。家計でいえば年間に使うお金の半分近くを借金でまかなって、なおかつ収入の10倍をはるかに超える借金を抱えているというのですから、ちょっと想像の範囲を超えます。借金を返すために借金をするというのですから、サラ金地獄と言ってもいいかもしれません。
このような状況を解消するためには、増税しかありません。歳出をいかに削減しようととてもまかなえないし、年金財政という問題もあります。年金は現在は若い人が年寄りを支えるという構造になっています(介護保険も同じですが、年金のほうがはるかに規模が大きいのです)。しかし日本は高齢化社会に急速に進みつつあり、若い人が年寄りを支えるという構造を続けることは、とうてい不可能です。今は支給開始年齢を遅らせることでお茶を濁していますが、このままでは早晩破綻することは明らかです。
こういった大きな問題を解決するには、国の収入を増やすことしかありません。つまり税金をもっと国民から取るということです。もちろん企業から税金を取ることもできますが、それは結局商品の価格などにはねかえってくるので、最終的に負担するのは消費者です。
税をめぐる不公平感、そして総選挙
さて、消費者の側からすると、リストラの恐怖はあるし、収入は増えそうにないし、こんなところで増税なんてとんでもないという人が多いのではないでしょうか。ただ世界的には、直接税(所得税)から間接税(消費税など)へという流れになっています。間接税のほうが税負担の公平になるからです。たとえば所得に応じて税金が変わる(いわゆる累進税)では、所得が多い人に重税感が生まれます。累進税率がきつかった日本が、「社会主義」であるといわれる理由はそこにあります。
同時に日本では、課税最低限が他の先進国に比べて高いのも事実です。税金とは社会的なサービスを提供するためのものであれば、たとえ所得が少なくてもある程度は負担すべきものといえます。もちろん低所得者にはそれなりのセーフティネットを用意しなければならないとしても、税金は税金として負担してもらわねばなりません。高所得者からたくさん税金を取って、低所得者の税金を少なくするというのは「所得の再分配」と呼ばれますが、それがいきすぎると、むしろ不公平感を生み、社会の活力(もっと所得を増やそうとするエネルギー)を削ぐことになります。
増税論議をする前に、「徹底的に歳出に無駄がないかどうか点検すべき」であることは当然です。でもそれをしたからといって、増税がなくなるわけではないのです。小泉首相は「自分の任期中には増税はしない」と言っています。これを見るとアメリカで現在のブッシュのお父さんが大統領だったとき「増税はしない」と言いながら結局増税に踏み切ったことを思い出します。
ただ増税は選挙には必ずマイナスに作用します。将来のことを考えれば今増税論議は絶対に必要なのですが、今年予想される総選挙を前に、自民党が果たして増税論議をできるかどうか。自分の票のことばかり考える国会議員では、ツケを子供たちに回すことのほうが簡単でしょう。そうなればますます日本は展望のない国になりかねません。