足を引っ張るのは誰
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年7月5日
日本の株価が上がり続けています。何といっても、出来高(つまり取引量)がすごいんです。低調なころは1日当たりの出来高はせいぜい6億株ぐらいだったのに、木曜日などは20億株を超えていました。ということは、株式市場に流れ込んでいるお金がすごい金額だということです。
「一難去ってまた一難」
株でもうかる状況が生まれると、債券に流れるお金が減ります。そうすると長期金利が上がってきます。もっとわかりやすく言えば、長期国債を買う人が減ってくると、金利を上げなければなりません。今までは、銀行が資金を運用するために、国債を買っていました。そのため、国債の相場が下がらず、金利を上げなくてもよかったのです。ところが、これからは逆の流れになってきます。
長期金利が上がると、何が起きるでしょうか。貯金で暮らしているお年寄りには金利が上がるのはいい話です。また金利が上がってくるということは、デフレとは逆の動きなので、デフレが収まっていくということなのかもしれません。しかし銀行は大変です。せっかく株が上がって含み損がなくなってきたというのに、今度は保有している国債の評価損が大量に出るかもしれないからです。「一難去ってまた一難」とはこのことでしょうか。
もっともこの株価の上昇が日本経済の復活を意味しているのかどうか、ということになるとはなはだ心許ないのです。株価が上がり続けているとはいえ、現在の水準は「竹中ショック」(竹中さんが金融相に就任したときに株価が暴落した)の前の水準に戻っただけ。要するに下がりすぎたものを修正したということでしょう。
経済回復の原動力は?
経済全体で言えば、回復しているという実感はあまりありません。アジア経済がやや持ち直しており、中国がウィルス感染症のおかげでブレーキがかかったために、日本はその「恩恵」を受けたようです。それに企業がリストラやなにやらで業績がよくなっています。でも肝心の個人消費は、まだ停滞したままです。
日本経済が今後どう動くかは、基本的に個人消費の動向によると考えていますが、年金という構造的な問題に加えて、給料が増えないし、企業は基本的にリストラを進めるという状況を見ると、とても個人消費がどんどん回復するとは言えないでしょう。そうなればやはり企業も設備投資を増やすことはできないでしょうし、一方で政府もあれだけの借金を抱えていては、財政出動というわけにもいかないでしょう。
資金運用能力が欠落する銀行
要するに、今の日本は回復の原動力を欠いているのだと思います。だとすると、株価もこのまま上がり続けて、日経平均で1万5,000円とか2万円ということには、そう簡単になりそうもありません。そうなると金融機関は債券の評価損に泣くことになりますから、また公的資金注入が話題になる可能性も出てくるでしょう。
冷たい言い方をすれば、金融機関が国債を大量に保有しているということは、彼らが資金を運用する能力が欠けているという「証拠」でもあるのですから、それで金融機関がつぶれても仕方がないのです。でもせっかく株価が上がって国民的にホッと一息つけるところで、また銀行に足を引っ張られるとしたら……。やっぱりちょっと納得できませんよね。
関連リンク
「『個人』が救う株式市場」(「私の視点」2003年3月15日)
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マネー@ewoman