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写真家・ジャーナリスト(医学ジャーナリスト協会会員)
伊藤 隼也さん
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生きる喜びや悲しみ
- 佐々木
伊藤さんの夢は何ですか。
- 伊藤
日本って、ある意味ですごく豊かな人たちがたくさんいますよね。お金もあるし、しょっちゅう旅行に行って、おいしいものを食べてて。でも、本当に何がしたいのかが探せない人もいる。そういう人たちが本質的にやりたいことって、たぶんお金を使うことじゃないと思うんです。
人として、例えば社会貢献するとか、いい意味で何かに寄付や労働力を提供するとか。生きがい。ところがそういう事をやり易い環境って、日本にはなかなかないですよね。
それに、そういう事業や仕組みに対する経済的援助や協力もあまり期待できない国です。NPOっていったって、政府が管理しやすいだけの仕組みだし。だから、医療事故市民オンブズマン・メディオはNPOにもしてない。
志はいっぱいあるけど、お金も無いし大した力もない。そもそも医療や国の監視をしようと思った人たちが作った団体が、なんで国に管理されなきゃいけないの……という感じかな。それだったら株式会社にしたほうがいい、税制のメリットも全然ないし。
- 佐々木
私もそう思って株式会社を選びました。
- 伊藤
で、やっぱりたくさんの人と夢を共有したいなっていうのが、やりたいことなんです。昨年ですが、ある障害者の27歳の青年に出会いました。彼はこの10年間外出したことがなかった。家の中で、人工呼吸器をつけて寝たきり生活、筋ジスストロフィーという病気で、小学校3年生で発病して以来、不自由な生活を余儀なくされていて。その彼と弟がある病院を通じて、外出したいという夢を何とかかなえるために医学生の集まりにビデオレターを出したんです。
そのビデオレターに対して、ある医学生のグループがレスポンスして。5人の仲間で彼の夢を叶えようっていう、そういうプロジェクトを始めた。そのときに、医学生から、実はこの青年は某テレビ局を見学したいので……と、ところが、某テレビ局に連絡したら、どうも門前払いをくらったらしい。そこで、僕にSOSがきました。
で、話を聞いて、うーん門前払いは許せん!と僕は頭にきて、知り合いに頼んで「こんな素晴らしい話、実現させてあげようじゃないか」と言ったら、局の担当者はちゃんと受けてくれた。昨年の10月10日に実行しました。
みんな予行演習から、たくさんの障害を乗り越えて、彼の大好きなバスに乗って羽田空港に行って、テレビ局に行って、普通の人なら何でもない、単なる一日の外出を10年間待ち望んだ。それは、参加した人全員にすばらしい体験でした。しかし、まさに死期を悟っていたというか、その2ヵ月後、青年は突然に亡くなってしまった。もう、悲しくて、悲しくて、久しぶりにおいおい泣きましたよ。
でも、こういう活動を社会に残すシステムをみんなで作ろうよって思ったんです。誰かに何かを一方的に差し伸べるのじゃなくて、一緒に何かをすることで、生きる喜びや悲しみを、みんなと共有できる夢をみんなに与えられたらいいなあ、と。
そういうのが僕の夢です。(その後、この外出プロジェクトはシステムとして残せるように彼ら医学生と亡くなったO君の弟を中心に新たな活動を始めました)
- 佐々木
すばらしい。私、「国境なきシェア集団」っていう名前で、自分の夢を語ってるんです。僭越ながら今うかがっているうちに、ダブッてきました。私は、経済人が仕事を続けながらボランティアできる仕組みを作るつもりです。まさに分かち合って共有するというのを、自分の生活を続けながらしようということ。それが私の最終ミッションなんです。
- 伊藤
写真家って、まわりにスタッフはいるけれど、わりとひとりで自己完結する仕事かな、撮った写真で終わりっていうね。だから、プロになると、特に最後はお金を稼ぐことが目的になりやすい。
最初はものすごくキラキラした感性があって、いろんな物を見て美しいなあ、きれいだなあって、いっぱい写真を発表して。でも、だんだん……。日本の社会ってその分野においての評価が、お金だったり権力だったり権威だったりするじゃないですか。ある日、そういう自分がどこかで嫌いになったしね。自分で居心地の悪さとか納得がいかないというところになった。
- 佐々木
すごく自然体――っていうのもまた月並みな言葉なんだけど、すごくこう、生きるためにひとつひとつ、溶岩がムクムクと出てくるみたいな、そういう生き方ですよね(笑)。熱いものがこうムクムク出てきながら、ちゃんと固めていきながら、進歩しているのが伝わります。
- 伊藤
でもね、やっぱり、僕は男として人並みにエッチなところもあるし、お金も欲しい、そういう欲望っていうのがちゃんとあるのが健康だと思ってるんです。僕の知り合いに、僻地医療でがんばっている医師が、「金持ちより心持ち」って言っていますが、僕はお金も心も一緒に貯めようよって。
- 佐々木
両方ね。同感! 今日はありがとうございました。いろいろこれからご一緒したいです。
- 伊藤
とても楽しかった。久しぶりに熱い自分を見せちゃったな(笑)。ありがとうございました。
対談を終えて
「いつもは熱くならないんだけど、今日は熱く語っちゃったなあ」。対談の直後に笑顔で仰った言葉が、伊藤さんの本心を語っているように思えました。ジャーナリストという人の中には、評論家のように第三者として語る人たちもいるけれど、伊藤さんは、違います。取材対象者の立場に立って、それでいて、その人たちを客観的に捕らえ、社会全体に役立つためにはどんな風な伝え方が一番良いのかを考えています。あったかくて、深い。病気になったとき、人は弱くなります。十分な選択肢を持たずにいる人も多い。何か一緒にできるのでは。今回の対談で、本当にそう思いました。これからもよろしくお願いします!
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