この会議への投票・投稿は募集を締め切りました。
まず、地方税には、「受益と負担」のバランスという大原則があります。自分が自治体から学校・警察・消防、さらには道路、橋、港湾といった公共サービスを「受益」する、その対価として税を「負担」する、という哲学です。この原則が働くから住民と自治体との間には望ましい緊張関係が生じ、「増税するくらいなら無駄な公共事業を止めてほしい」ということが言えるのです。 ところが、ふるさと納税は、自分が受益している自治体サービスに対する納税額を直接減らして、その分を他の自治体に回すという仕組みとなっており、「なんら受益していない自治体に税金を払い、逆に、受益を受けている自治体にはその一部の負担をしない」ということになります。「受益と負担」が徹底されず、地方自治の根幹の哲学が揺らぐことになるのです。 他方で、納税者が自分の税金の使途に対して、も少しイニシアティブを発揮させてもいいのではないか、という議論は正当性があります。そこで、このアイデアを、地方税の原則に沿ったものに変えていく、つまり、寄付金税制として受け止めるという方法があります。 ふるさとである自治体が、都会に転出した人に対して、「自分たちはこんなに立派な行政をしているので、自分が育ち父母の住む故郷に寄付をしてください。その際には、税金も軽減されます。」という競争が始まれば、地方行政が活性化され面白いことになるのではないでしょうか。 しかしこのような制度には、東京都をはじめとする大都市の自治体からの反発があります。その理由は、都会には、混雑の緩和、震災対策、テロや大規模災害等大都市特有の財政需要がある、他の自治体に振り向ける余裕はない、というものです。
そもそも「ふるさと納税」のような案が検討される背景は、自治体間の「税源」に格差があることです。現在東京と沖縄の間には、人口1人当たりで3倍の格差があります。この格差を埋めるには、ふるさと納税制度だけでは解決できません。ふるさと納税とは別に、特に格差の大きい地方法人税の配分の方法を変えようという議論が起きているのはご存知ですか? このような、地方自治体間の税源の再分配は、「水平的分配」と呼ばれています。
そして、もう一つ重要な事実があります。今の日本では、「税源」という意味では都市と地方間に大きな格差があるものの、その格差は、地方交付税と国からの補助金で埋められ、結果的には地方の方がより多く「財源」を得ているという事実です。東京都は島根県と比べて2倍の一人当たり税収を上げています(2000年度決算)が、交付税や補助金による再配分の結果、東京都の3倍弱の「財源」を手にしています。 先進諸外国を見ても、都市部と地方で一人当たりの財源が逆転するところまで再分配する例は見当たりません。過剰な垂直的調整を是正しつつ、都市と地方の税収格差を可能な限り均等化する、両者があいまって初めて「受益と負担」の関係、国と地方の関係が正常化するのでしょう。このような国から地方への配分は、「垂直的再分配」と呼ばれています。