人気取り。落とし穴にはまるのは、自民それとも……
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年11月8日
民主党が主要閣僚を発表しました。地方分権大臣に田中康夫長野県知事を充てるとか、財務大臣に榊原英資慶應大学教授を充てるとか、菅さん精一杯の「受け狙い」という感じの記者発表でした。でもはっきり言わせてもらえば、この主要閣僚構想には疑問符をつけたくなります。小泉首相が安倍さんを幹事長に据えたことよりも、さらに選挙向けという臭いの強いものだったからです。
田中さんの裏切り、政策のわからない榊原さん
たとえば田中さんは、現職の知事。その人を閣僚にするということは、長野と東京を行ったり来たりするのでしょうか。知事と大臣って一人で二役を務められるぐらいの仕事なのでしょうか。そのときは給料をどうするつもりなのか、というのはちとみみっちいとも思いますが、長野で彼を再選した有権者にとっては、納得のいかない話ではないでしょうか。
榊原さんは元大蔵省のお役人。世界の通貨関係者から「ミスター円」と呼ばれた実力は誰しも承知しています。とはいえ、彼の経済政策や財政政策が、現在の政策とどう違うのかあまり明らかではないと思います。それに田中さんと違って、榊原さんは「政治家」ではありません。政治家ではない人が政策を決定するというのは、ある意味で極めてリスキーだとも思います。
そういえば竹中さんも……
アメリカのキッシンジャー元国務長官だったと思いますが、おもしろいことを書いていました。政治家と学者の違いは、政治家は一瞬でリスクを取って決断しなければならないが、学者は間違えたら修正すればいい、というようなことを読んだことがあります。つまり政治家とはそれほどギリギリの決断をしているものだということです(そうは思えない先生が多いのも事実ですけど)。
もちろん榊原さんだけに反対するわけではなく、現在の竹中さんについても就任当時から同じ感想を持っています。もちろん民間の有識者を起用することすべてがおかしいとは言えませんが、政治的なリスクを背負うべきポジションに民間人を充てることについては、相当慎重でなければならないと思うのです。なぜなら、その政策が失敗したときの責任は、大臣を辞めるということだけで済むはずはないからです。以前、竹中さんがアメリカの大学に職を求めようとしているという噂が流れたことがありますが、失敗すれば大学に戻るだけというのでは、失敗された国民はたまらないのではないでしょうか。
こうした見方は民主党に厳しすぎると思われるかもしれませんが、「安倍幹事長」について人気取りのための人事と批判する野党が同じようなことをやるのは、見ていてどうにも気持ちが悪いのです。
対照的だった鳩山さんと小沢さん
それにこの主要閣僚についてもう一つ言わせてもらうと、鳩山前代表が文部科学相として並んでいたのも、何か違和感がありました。もともと鳩山さんは自由党との連携を推進した人。結果的に菅さんが自由党との合体を成功させた形になったから、選挙の応援もあって鳩山さんを主要閣僚として押し出したのでしょうか。何となく満面の笑みを浮かべた小沢さんと一番端っこでぽつねんと座っている鳩山さんを見て、複雑な感じがしました。
11月9日の投票日に有権者がどういう判定を下すかわかりませんが、この民主党の主要閣僚発表は、僕には逆効果だったように思えてなりません。