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平田 オリザさん
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いろんな授業の中で演劇的な工夫をするんですね
- 佐々木
私の子どもの頃は、演劇を観に行くなんて余裕のない家庭だったので、大学の時に初めて先輩に連れていっていただいた時、ショックを受けました。「こういうのを観にくる生活があるのか」って。
私は演劇については詳しくないですが、生活に大切だと考えているんです。以前南アフリカにアパルトヘイトの取材に行った時、即興劇を観たんですね。おもしろい即興劇で、俳優がステージの上に立つんですけど、リングのように全方位にお客さんがいて、第1幕だけストーリーがあって、黒人と白人が恋に落ちるようなストーリーなんです。家族が反対するような、アパルトヘイト時の生活シーンを1幕目はやるんです。
そこが終わったところで、「さあ、どうなる?」って役者が会場に聞くんですよね。すると会場から、例えば「やっぱり女を捨てる!」とか「いや、駆け落ちする!」とか、いろいろ皆が叫ぶと、少し間を置いて、役者たちは、何一つ打ち合わせをしないで、動き出す。即興劇です。互いに。で、また2幕が終わると、また「どうなる?」って聞くと、皆がしゃべるので、すごくおもしろくて。
そういうのも、演劇って言うんですよね? 演劇の技術でもあり、生活に大切な技術だとおもって。
- 平田
演劇っていうのは、日本では特に、やっぱり台本があって、演出があって、俳優が動いて、それをただ普通の人は観にいくっていうのが固定された考え方ですけれども、特に南アフリカなんかは、イギリスの教育の影響を受けていますから、演劇っていうのは、もっといろんなところでいろんな風に使われるものなんですね。授業なんかでも、別に演劇の授業だけではなくて、いろんな授業の中で演劇的な工夫をするんですね。
例えば、カナダとかオーストラリアみたいな多民族の国家ですと、ドラマティーチャーというのが各校にいるんです。これはもちろん選択科目の演劇の授業を教えるんですけれども、それ以外に、実際にカナダで僕もその授業を受けたんですけど、例えばフランス語の先生と組んで、フランス語の習得のためのモチベーションを高めさせるために、どうしてフランスからカナダにたくさん移民が来たのかっていうことを、皆で考えて劇にしていって。フランスの港を出る風景とかを自分達で演じたり、次の授業では、開拓の頃の絵を見せて、自分達の村がどんな村かを、今度は絵に描かせるんですね。
これは美術の授業に近いですよね。川が流れていて、水車があって、とか。その次の授業では、先生自身が悪役のイギリス人の将校になって、立ち退きを命ぜられて、「プロテスタントに改宗して、イギリス軍に協力したら、ここにいていいけど、そうじゃなきゃ出て行け」っていうようなことで、村人が追い詰められていったり。
そういうのを、フランス語の先生とは別にドラマティーチャーがいて、授業を盛り上げていくんですね。そういうものにも、演劇はたくさん使われているんです。
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