ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第57回 茂木 健一郎さん

57 |
脳科学者 ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー
茂木 健一郎さん
|
|
|
「個」は他者との関係で成立する
- 佐々木
今のお話をうかがっていて、それを私たちの毎日にどう活かそうかと思って聞かせていただいたわけですよね。脳科学をどう活用するか。
イー・ウーマンって何をやっているかって言うと、いろいろなテーマを投げかけて、投稿してもらいます。
投稿にはI statementで書いてくださいっていうルールがあります。日本語では不自然ですが、「私」ということをちゃんと認識して、自分の固有な考え、体験であることを明確に書いてくださいってお願いしています。
たとえば「牡蠣フライはソースか」っていうテーマには、「いやあ、ソースの方が多いでしょう」ではなく、「私はソースが好きだ」「私は醤油とレモンがおいしい」というふうに。「私」は、っていうことがきちんと認識できるのかっていうことが、私は重要なことだと思って、サーベイを展開しています。
イー・ウーマンは、「自分で考え、自分で選び、自分で行動する人のコミュニティー」という考えで、「私は」を認識する練習の場でもあるように、と思っているのです。
- 茂木
すばらしいことですよ。最近ぼくは、個ということを非常に気にしていまして。というのは、養老孟司さんと、この前ソニーでちょっとシンポジウムやって、養老さんがしきりに個ということを言われた。ソニーも個というものを非常に大切にしてきた企業で。
つまり、経営者として、個人名で世界的に名前が通じる人たちを、ずっと輩出してきたわけですよ。一時期日本って、個の育成がどうのこうのとか言ってたんですけれど、あれは非常に、基本的に間違った認識のもとに個というのを語っている、と。なぜかというと、脳科学的に見ると、個というのはそもそも他者との関係で成立するんです。これは当たり前なんです。
たとえば、お母さんがどういうふうに自分を思っているかということが、子どもにとってはものすごく重大なことなんで、子どもっていうのは必ず母親との関係性の中で自我っていうものを確立していく、と。だから、世の中にもともと、ほかの人との関係性から切り離された個なんていうのはないんですよ。自分勝手とかそういうことはまったくなくって、個ということを言ってもね。
- 佐々木
そうですよね。人は他者との間で生きる。
- 茂木
ただ、関係性の中で、どうやって自分というユニークな存在を磨いていくかということがあって、それは磨けば磨くほど、他人との関係性も豊かになるし、社会全体も豊かになるわけですよね。
そこをちょっと、日本人はまだ理解してないようなところがあるわけですね。個という問題の大切さを。だからそこを、いかに脳科学をやっている立場からうまく一般の人々に伝えていくかっていうのがミッションのひとつかなあ、と思っているので、そのI statementというのには非常に共感します。
8/25
|
 |
|
|