麻生さんに気になるのは官僚との間合いの取り方です。自民党総裁選挙の最中に「脱藩官僚の会」が発足しました。財務省、経産省、文部科学省など中央官庁を辞めた「改革派官僚」と呼ばれる人たちが旗揚げしたのです。記者会見で「総裁候補5人のうち官僚がもっとも喜ぶのは誰?」という質問が出ました。答えが「麻生さん」。
官僚にもっとも近い、とされたのは与謝野さんでしたが「与謝野さんは官僚を自分の意に添って使おうとするので支持される反面、警戒もされる。麻生さんは『言うがままになってくれるので安心』と思われている」という答えでした。
麻生さんが「官僚の手のひら」に乗るかは、今後の活動ぶり次第ですが、官僚に「操縦しやすい」と見られているとなると心配です。国会答弁もアドリブのような麻生節は議論の本筋と関係ない遊びの部分で、答弁の軸は官僚の筋書きに沿ているように思いました。
議員時代を見てきた記者によると「仲間を連れ歩いて食事したり飲んだりするのが好きで読むのは漫画だけ」と言います。友達として付き合ったら「いい奴」「ご機嫌な先輩」かもしれません。首相になったらそうはいかないでしょう。閣僚になると、その省の「教育係」が付きあれこれ知恵を授け、耳にタコができるほどその省の基本方針をたたき込みます。省の規模なら自分なりにこなすことができても、首相になると膨大な情報を判断しなければならない。確固たる政治信念や経験がないと「優秀な秘書官」のいうままがままになってしまいます。
今の日本は議院内閣制でなく官僚内閣制と言われます。長期政権が続いた結果、政策や行政は役人に任せ、政治家は党の中で派閥活動に明け暮れ、誰を首相に担ぐか、自分は閣僚になれるといったか「出世競争」にエネルギーを費やしてきました。
議員は法律を作るのが仕事ですら、法案は官僚が書き、できた法律を執行するのも官僚です。旦那が町内会に明け暮れているうちに店は番頭が思うままに支配した、といった具合です。年金を改竄した社会保険庁、汚染米の転用に無策な農水省、官製談合が体質化している国土交通省、装備品の水増し請求を許していた防衛相……。噴き出る不祥事は行政組織の病が症状として表れていることを示しています。政治家が官僚の御輿に乗っているだけでは、日本はよくならない。
自民党も民主党も政策の中身は、そんなに大きく違うようには思えません。どっちの党が、どっちの指導者が、官僚支配に大胆なメスを入れられるのか。麻生内閣の今後を注意して見て行きましょう。
山田厚史 朝日新聞 シニアライター |
 |
|