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毛利 子来さん
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「大丈夫ですよ」っていうのは非常に勇気がいるんです
- 佐々木
でも、どうして、小児科の先生達や一般の医学書は、どちらかというと、リスクを強調するとか、言いすぎかもしれませんけど、とても心配にさせる。あるいはチェックリストをチェックさせるようなふうに持っていく傾向があるでしょう?
- 毛利
圧倒的にそうですね。それは分かるんですよ、僕も。僕みたいに「大丈夫だよ。何とかなるよ」というふうに書いていて、もし何とかならなかった場合は訴えられちゃう。
だから、医者をしていて、ちょっとした風邪で連れてこられても、「もしかすると肺炎かもしれないから、レントゲンを取っておきましょう」とか「血液を調べましょう」とか「念のために薬を出しておきましょう」と言うと、十分しておいたという事で、悪くなっても咎められないし、自分も安心できる。
だから、「大丈夫ですよ」っていうのは非常に勇気がいるんです。
- 佐々木
そうですね。
- 毛利
僕、いつも思うんですが、「子どものため」って、よく親も、医者も、教師も、保育士さん達も、幼稚園の先生もおっしゃるけど、あれねえ、あれはちょっと怪しいんだな。
僕に言わせれば、「子どものため」は、一皮剥けば、実は自分のためなんですよ。
たとえば、医者の場合で言うと、「念のためにレントゲンをとっておきましょう」とか「念のために抗生物質を出しておきましょう」って言うのは、自分がそういう事をしておけば、十分な事をしたという安心をもちたいんですね。
それを僕なんかは、ちょっと意地っ張りだから、ひねてるから、「薬なんかやらない。こんなの放っときゃ治る」って。そうすると、お母ちゃんはしつこいからね。お父さんは「そうですか」なんて簡単に引き下がるんだけど、女親は、やっぱりね。
- 佐々木
そんな所で、女と男を分けないでください(笑)。
- 毛利
ああ、そうか、そうか(笑)。でも、やっぱり思いが違うんじゃないのかな。だから、「大丈夫? 先生」って言うから、「まあ、大丈夫」って言うと、「『まあ』じゃダメよ、先生」って(笑)。だから、薬をあげる、あげないで、時間を喰ってかなわんのですよ。でも、僕も意地になっちゃうから、「やらない。薬が欲しかったら、よその医者に行け」って追い返しちゃうんです。
さて、そうするとねえ、夜11〜12時になって、仕事が終わって酒を飲みながら、「ああ、今日は、あのお母ちゃんとけんかして、追い返しちゃったけど、意地を通したけど、ひょっとして悪くなってるかなあ?」と思うと、心配になって酒がうまくないから、「まだ起きているんじゃないか?」って電話する。
そうすると、お母ちゃんが、「あら、先生!」って、頭のてっぺんから飛び出るような声を出しますよ。「すやすや寝ています、お陰で」って。お陰じゃないですよね、僕、何もしていないんだから。子どもが勝手に良くなっているんでね。僕のお陰じゃないんだけど、「お陰で、寝ています」って。それで酒がおいしく飲める。
すると、明くる朝、ウイスキーを持って、「どうも、うちの息子の事を夜まで考えてくださって、ありがたい先生です」って。
- 佐々木
(笑)
- 毛利
「いや、あなたの息子の事を考えて電話したんじゃない。僕は酒がまずいから、自分のために心配したんだよ」って言うんだけどね(笑)。そういう事があるんですよ。
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