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株式会社プラップジャパン 取締役副社長 普楽普公共関係顧問有限公司 CEO
杉田敏さん
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笑いの文化とプリゼンテーション
- 佐々木
英語ではジョークっていうものに対する考え方とか、それこそユーモアの本とか、スピーチの前のユーモアとかなんとか……っていう本がいっぱい出ていますが。その人の力量は別にして、日本では講演をする時に、ジョークを交えることがいいのか悪いのか、使えるのか使えないのか、それらを取り入れる文化がなく、教育もなされてこなかった。価値も認められてこなかったと思えるんですけど、そんなことはないでしょうか?
- 杉田
でもやっぱり落語とか、漫才という文化があるわけで、おもしろいものに対して笑う文化はあるんですよ。
- 佐々木
でも、アメリカだと大統領のスピーチの中でも、企業のCEOがビジネスシーンで話す時にでも、必ずいくつか引用できるような言葉があるし、パブリックスピーキングなんてジョークのテクニックも一つのプロセスとして学ぶ課程があるように思うんです。それが日本にはない気がします。
- 杉田
それはそうですね。落語とか漫才を聞く時には、「これはおもしろい話だ」ということが聞く前提になっているので笑うけれど、そうじゃなくてビジネスのプリゼンテーションなんかだと笑わない。
- 佐々木
聞く側も、笑うということが自分の対応に入っていないで、逆に、何が何でも笑っちゃいけないぐらいの人のほうが多いのかな。
- 杉田
清水幾太郎氏だと思ったんですが、いつか雑誌にこんなことを書いていました。講演を依頼されたので、自分としてはすごい最新のおもしろいネタを仕入れて話をしたつもりなんだけど誰も笑わない。がっかりして終わって、主催者に講演が失敗したことをお詫びしたら、「いいえ、実は東京から偉い先生が来られるということで、失礼があるといけませんので、事前に絶対に笑わないようにとみんなに言っておきました」と(笑)。そんなに極端じゃないかもしれないけど、なんか笑うと失礼だという感じもあるかもしれませんね。
- 佐々木
ビジネスでのスピーチ講演の時のなんかの笑わせ方っていうのか、ストーリー展開のようなものが、日本では、あんまり語られていないような気がして。
- 杉田
アメリカには、スピーチライターのほかに、ジョークライターもいます。以前、ロバート・オーベンというコメディアン兼ジョークライターのニュースレターを購読していたんですが、そこに次のような話が載っていたのを覚えています。
ある時、大手企業の会長秘書からオーベン氏のもとに、スピーチの冒頭で使うジョークを書いてほしいという依頼がありました。どういう場所でどういう話をするのかを伝えると、相手は「では、ジョークと一緒に請求書も送っておいてください」と言って電話を切ろうとします。そこでオーベン氏は言いました。「料金は聞かなくていいのですか」。相手は、「いいえ結構。ご指定の額をお払いしますよ」。そこでオーベン氏は数千ドルというかなり高額の数字を出します。電話の向こう側で相手はちょっと息をのんだようですが、「たった一つのジョークがどうしてそんなに高いのですか」と聞いてきます。
それに対してのオーベン氏の答えが振るっています。「いいえ、たった一つのジョークにそれだけのお金をいただくのではありません。その場に最も適したジョークにいただく正当な価格です」。
これはまさにそのとおり。どんなジョークでも言えばいいというものではありません。その場の雰囲気に最も合い、聴衆にも受け、話し手のパーソナリティーがにじみ出ていて、しかもその後の話にもうまくつながるようなジョークを考えるのは大変なことです。そこまでできる自信がなければ、ジョークはやめたほうが無難だと思うんです。
- 佐々木
なるほど、「場」をとらえるとか、聴衆の背景を把握する、といったことが大切なんですね。
- 杉田
ある時、津田塾大学で講演を頼まれて、こんなふうに始めたことがあります。
「NHKの番組を始めてからずっとフルタイムの仕事を2つ抱えているような状況でしたから、時間管理をしっかりしないとやっていけません。朝は4時 20分に起床して、6時前にはオフィスに着いて仕事を開始しています。年に平均して10回は海外に出張に出ますし、国内各地で講演を依頼されることもしばしばです。本日、ここに来ればアポなしでも必ずわたしに会えるというので、女房も会場に来ております……」
どの人が杉田の妻だろうと聴衆がきょろきょろした時に、「……というのはジョークです」と続けました(笑)。実は、これは79年にロンドンのある国際会議に出席した時に、一人のスピーカーがスピーチの冒頭に使ったジョークです。気に入って、いつか機会があったら言ってみたいと思っていたのですが、 20数年後に機会があったということです。このジョークとその「タネ明かし」は大うけしました(笑)。
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