ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第98回 金野 志保さん

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金野 志保さん
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身代わり事件
- 佐々木
今、「困ったケース」と言われましたが、金野さんが携わった中で、これはなかなか歯が立たない、というのはありました?
- 金野
歯が立たないというより、先ほど法曹倫理の話をしましたけれど、弁護士倫理的に正解のない事件というのがあるんですよ。これはいつも自分の授業でケーススタディとして学生たちに出題しているのですが、いわゆる「身代わり事件」がその1つなんです。
これは実際に私が遭遇した身代わり事件を抽象化してケースとして示して、学生に「こういう場合、あなたならどう考えますか?」と聞く、という形でレポートを出させてから講義をします。
「自分は身代わりで、本当は犯人ではないのです」と告白されました。「でも、このまま自分が犯人ということで裁判をやってください」と言われたときにどうするか? というような問題なんです。
- 佐々木
実際に、金野さんが遭遇されたんですか。弁護士として選任されたら、実は本人は「私はやっていないけれども、このままやってください」と言われた。
- 金野
そうなんです。それはまだ私が弁護士になって1年半くらいの時期に、国選弁護事件として受任した事件で、私が実際に遭遇したケースをベースにしています。被告人に言われるままに弁護活動をやると、犯人隠蔽罪という刑法上の犯罪になります。私も、その被告人も。
だけど被告人自身が身代わりの事実を言わないでくれ、と言ってるのに、弁護人が勝手に裁判所で言ってしまったら秘密漏洩罪になります。つまり、どっちに進んでもダメとなるわけです。
- 佐々木
どうするんですか? 授業の題材ですから、ここでは答えられないでしょうけれど。
- 金野
ええ、これは正解はない、と言われている問題なので、方法としてこんなことが考えられるよね、というようなことを講義で話すんですけど。
- 佐々木
もし私だったら、やっぱり本人に自白させるように動くと思うんですけれど。
- 金野
もちろん被告人の説得ができれば一番いいんですが、説得に応じない時はどうするんですか、というのが難しい問題なのです。そして国選だから辞任もできないんです。私選なら、辞めますという選択肢もないわけではないのですが。実際、私がこういった身代わり事件に遭遇した時は、本当に大変な思いをしました。
- 佐々木
それは結局どういうふうに解決したのですか? 仲間の弁護士とかに相談しながらですか?
- 金野
そのときは幸い、結果的に、被告人を説得することができました。自分の司法研修所時代の刑事弁護の教官にも電話しました。もちろん電話の前に、まずは自分で、司法研修所時代の刑事弁護の教科書を見たんですよ、こういう問題について書いてあったはずだなと思って。でも「難しい問題である」としか書いてなくて。「答え書いてないじゃん!」って(笑)。
教官に「もしもし、ここ、答えが書いてないんですけど、どうしたらよいのでしょう」と相談したら、その先生も「絶対的な正解はないので、僕も一晩考えるから待ってくれ。このままやっちゃいかんことは確かだよ、あなたのバッジが飛んじゃう」と言って。
翌日、彼は地方出張に行く途中、新幹線の中から電話してきて「こうしたらいいんじゃない?」というアドバイスをくださいました。
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