ホーム > 佐々木かをり対談 win-win > 第98回 金野 志保さん

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金野 志保さん
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徹底した陪審員制度なら、もうちょっといいな
- 佐々木
やっぱり、そういう支えがあって乗り越えることもあるんですね。今度、裁判員制度が始まって、一般の人たちが裁判所に行く。で、人を裁く立場、という表現でいいんでしょうか、になるわけですが、これに対して、良い面もあれば、いろんな意味で危険性もはらんでいると思うんですが。
- 金野
本当は、アメリカなりイギリスなりの徹底した陪審員制度ならいいなと思うんです。でも日本の裁判員制度は、欧米の陪審員制度と違って、情報からの遮断という意味では必ずしも徹底されているとはいえないですよね。
よくお話しすることなのですが、テレビでワイドショーを見ながら「あら、この人ったら、悪い人ね!」と言っていた方が、法廷に行って裁判員になるというのは、マスメディアからの影響を受けざるを得ないのではないかと懸念しています。どうしても先入観を持ってしまうでしょうからね。ちょっとそこのところが不徹底であると思うんです。
あと、国民自身の義務感が、アメリカなどの陪審員と違うでしょうね。このように、懸念している点はたくさんあります。
ただ、副産物としてですが、良い面もありますね。今、裁判員制度実施に向けて、司法教育を小学生くらいから一生懸命やり始めていますよね。そういったことは、司法全体に対して、いい影響があるのではないかと思うんです。裁判とはどういうものか、ということを子どもの頃から関心を持っていくということは、非常にいいことじゃないかと思います。
もっと子ども時代から司法教育をきちんとやらないといけない、と前から思っていましたので、これをきっかけに、国民の司法に対する意識が高くなっていくのではないかと思うんです。
- 佐々木
そうですね。法律という考え方や存在や内容を、子どもたちが生活の中で学習するというのは良いことで、それは私も大賛成です。でも一方で、おっしゃる通り、制度が不十分な面もあるでしょうね。
アメリカの陪審員制度は本当に良くできています。知人がアメリカで弁護士をしていて、以前彼女が「陪審員を選ぶところ、勉強になるから見においでよ」といってくれたので、裁判所に行って傍聴したことがあります。
「この被告を知っていますか?」から始まって、呼ばれてきた陪審員候補者を厳選していく。「この人を知ってる人は座ってください」、「この事件に関係する企業を知っている人は座ってください」と、どんどん候補者が減っていき、まったくそういったテーマも知らないし、過去に携わったこともないし、親戚や友達に似たようなことがあったこともない、という人を選ぶ。
ですから、O.J.シンプソンのときはとても大変だったとか。つまりO.J.シンプソンという人を知らない人、その事件について過去に何も知らない人だけを選ぶのに、何カ月か掛かったと聞きました。そして、裁判中は、テレビを見てもいけないし、新聞を読んでもいけない。
そんな人って、いったい何者だということなんだけど、でもそこまで徹底している姿を見たときは驚きました。でも日本版は必ずしもそうじゃない。
- 金野
そうなんですよね。でも、ひとつには素人の方が、「疑わしきは被告人の利益に」というのを純粋に解釈するところがあって、私、弁護士会で模擬陪審をやったときに携わったことがあるのですが、私たち弁護士から見てもこれはさすがに有罪だろうな、と思うような案件でも、一般の方は、無罪の票を入れる人が多いんですよ。
どっちかわからない、グレーだと思ったので、疑わしきは被告人の利益に、と思って白にしました、という。
- 佐々木
なんかその辺が本当に基本に忠実というか、いいケースですね。
- 金野
ええ、そうなんですよ。白という結果がいいかどうか、それはケースバイケースかもしれないですが、被告人が無名の人だったら、このように「推定無罪」の基本に忠実という面が良い面としてあらわれる場合もあるのではないかと思います。他方、メディアでガンガン報道されちゃうような事件の被告人だと、逆に有罪の先入観をもたれてしまうケースも出てくるかもしれません。
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