<3ページ目からの続き> ……鳥インフルエンザのウイルスが変異したものであることがわかっています。 当時、日本だけでも2000万人が感染・発病し、38万人もの人が亡くなっています。 当時に比べて、人の行き来が格段に活発になっている現代。もし新型ウイルスが発生したら、空気感染によって……。 想像するのも恐ろしい事態です。日本でも十数万人が死亡するだろうという予測もあります。 このウイルスは、まだ発生していないのですから、ワクチンを作ることもできません。
「抗ウイルス剤」だけが頼り 長い間、特効薬がなかったウイルスですが、最近になってようやく「抗ウイルス剤」が開発されました。これは、次のような原理で働きます。 ウイルスには、「ヘマグルチニン」(略してH)と、「ノイラミニダーゼ」(略してN)という2種類のたんぱく質の突起があります。Hは15種類、Nは9種類あり、組合せによってさまざまなタイプがあります。タイプによって感染する動物が異なります。また毒性も、弱いものも強いものもあります。今回の鳥インフルエンザウイルスは、「H5N1」というタイプで、極めて毒性が強いのです。 ウイルスは、まずHの突起で細胞に取りつき、細胞の中に入り込んで、自分のコピーを大量生産します。次にNの突起を使って細胞膜を破り、外に出ていきます。 そこで、抗ウイルス剤は、このNというたんぱく質の突起の働きを無効にしてしまうものなのです。こうすれば、体内にウイルスが入ってきても爆発的に増えることはありません。ウイルスに感染しても発症は抑えられます。 しかもウイルスは体内に入ってきているので、人間の免疫システムが働き、次に同じウイルスが入ってきたときは、抗ウイルス剤の力を借りなくても、人間本来の免疫力で退治することができるようになります。 この抗ウイルス剤は、商品名を「タミフル」といいます。スイスの製薬会社ロシュが独占的に製造し、日本にはロシュの子会社の中外製薬が輸入しています。 ロシュには世界中から注文が殺到し、日本でも、中外製薬の株価が急騰するということまで起きています。 いま世界各国が、新型インフルエンザの流行に備えて、タミフルの備蓄を急いでいます。アメリカは今月1日、ブッシュ大統領が、4400万人分のタミフル備蓄の方針を打ち出しました。新型インフルエンザ対策のために、総額71億ドルもの予算を議会に要求しています。 日本でもタミフルを2500万人分備蓄しています。でも、もし大流行が始まったら、それで間に合うのか、心配する人もいます。 でも、まだ新型ウイルスの発生(変異)は確認されていませんから、あまり心配しても仕方がありません。とにかく、従来のインフルエンザにだってかからないように、日頃から十分な睡眠と休養、栄養をとっておきましょう。実はそれが一番むずかしいのかも知れませんが。
鳥インフルエンザ―過去のサーベイもチェック!
池上彰の 『解決!ニュースのギモン』