「反小泉」から「非小泉」へ。それでも安泰?
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年12月20日
小泉さんではもうダメという言葉は昨年からしばしば聞かれるようになりましたが、今年に入ってからは一段と「反小泉」というか「非小泉」論者が増えているように思います。小泉さんは別に改革派でもなんでもなく、政治の潮目を読むのが上手なだけ、ということを言う人もいます。
たしかに小泉さんがいきなり登場してきたとき(あの時は政治に詳しい人ほど小泉さんが登場する可能性はないと考えていたのです)、自民党をぶっ壊すだの、郵政民営化だの勇ましい発言をポンポンとしたことで、一挙に国民の改革期待に火がついたのでした。それ以来、国民的期待を短い言葉(あえて短い文章と言わないことに注目してください)でスローガンを語り、国民的人気を博してきたのでした。
小泉さんの嗅覚と運
小泉さんは嗅覚が優れているだけでなく、ツイてもいます。田中真紀子という時限爆弾を抱えながら、その人を外したダメージは北朝鮮で挽回しました。郵政民営化で鋭く対立していた野中さんは、結局政治から身を引いてしまいました。中曽根、宮沢という両長老は、いろいろ抵抗したけれども、寄り切って土俵から押し出してしまいました。それだけではありません。この景気回復が本物かどうかいまだに確信はもてないけれども、少なくとも株価は上昇し、金融危機も一段落しそうなのです。
外交でも同様です。2001年9月11日のテロをきっかけにしてブッシュ大統領との関係が深まったということができるし、北朝鮮問題ではとにかく拉致されていた人たちを取り返しました。今までだったら、国民の目から見ると何かわけのわからない「外交的解決」になりかねなかったけれども、ある意味で、小泉さんになってから、外交の視線が小泉さん流にわかりやすくなったと思います。
さらに自衛隊派遣問題では、フセイン元大統領が拘束される直前に派遣を決めました。拘束された後だったら、いかにも「これでイラクも少し安全になるだろう」と考えての決定のように見えて、各国へのアピールも弱かったかもしれません。しかも自衛隊派遣では、危ない地域には自衛隊を送らない、という暗黙の前提がとうとう崩れてしまいました。このまま突っ走ると、憲法改正問題まで発展してしまうのかもしれません。
危うい米国一辺倒
もちろん問題もあります。たとえば外交では、アメリカへの追随姿勢がより鮮明になっています。今までだったら「結果的」対米追随、今は「意図的」対米追随。わかりやすいのはもちろん後者ですが、国民の感情から言うと、そんなにブッシュ一辺倒でいいのかという疑問が生じるでしょう。対米追随という姿勢は、現時点ではうまくいっています。それはブッシュ政権が、基本的に中国をあまり信用せず(クリントン政権と一番違うところですね)、むしろ日米同盟を大事にするという姿勢をもっているからです。
しかしその分、中国や韓国とはギクシャクすることになります。それを仕切るだけの外交能力が日本にあるかどうかということになると、甚だ心許ないのです。また北朝鮮は、日本が拉致に関して敏感であるところから、その問題を通じて、日米韓の間にくさびを打ち込もうとしています。自民党の安倍幹事長が対北朝鮮強硬派であるから、なおさら北朝鮮は拉致被害者の子どもたちを使って揺さぶりをかけてくるでしょう。これをどうさばくのか、拉致被害者に対しては国民の支持も強いわけですから、ここで一歩間違うと政権の座にも響く可能性があります。
来年も安泰? 「小泉」政権
来年にかけての小泉政権のアキレス腱は依然として景気でしょう。ただ景気は今は上向きです。このまま急回復というわけにはいかないでしょうが、景気が腰折れしてしまう懸念は小さいと思います。株価が上がっているとはいえ、小泉政権発足時よりは相当安いのに、国民はそんなことをすっかり忘れてしまっているのも「好都合」ですね。
とにかく金融危機は当面遠のいたといえるでしょうし、保険会社なども株価が上がって一息ついています。景気が急激に悪化しなければ、来年も小泉政権安定ということでしょう。それではおもしろくない、とお考えの方は、誰が首相だったらおもしろいか、ぜひご意見をいろいろ書いていただきたいものです。