中世の一時期、ヨーロッパではベルギーやオランダ、イギリスなどの寒い地域でもワイン造りがおこなわれていました。が、気温が低いので、白ワインはできても赤ワインは難しく、その後地中海周辺から安くて質の安定したワインが流入するようになると、北方のブドウ畑は取り潰されてしまいました。 ドイツに白ワインが多いのは、赤ワインの原料となる黒いブドウを育てるには気温が低過ぎるからです。が、このまま温暖化が進行すれば、ドイツワインは赤が主流になるかもしれませんね。
温暖化の影響で、コルク栓の原料になるコルク樫の木が危ない、という説もあるようですね。コルク樫は9年に1度、肥厚した樹皮を剥いで使うのですが、イベリア半島南部と北アフリカの一部でしか生育しないとされてきました。樫の場合は、いまから北方に植え替えるわけにもいかないかもしれません。
でも、おそらくあと20年もしたら、世界中のワインの栓は、ほとんどがスクリューキャップに変わっているだろうと思います。瓶の中での熟成が、これまでいわれていたように(コルクを通してわずかな空気が通うために起る)緩慢な酸化によるものではなく、酸素を必要としない還元的な現象であることが知られるようになってから、むしろキャップのほうが安定した品質を保つことがわかってきたのです。ひねるだけで簡単に開けられる栓だとソムリエはかっこがつかなくて困りますが。温暖化に歩調を合わせて、ワインだけでなく、ワインをめぐる文化も変容していくかもしれません。
私も北極の氷が解ける映像を見ると「長い地球の歴史の中の小さな気温サイクルの一つ」なのかなぁ、とも思いますが、一方で、たかだかこの60年くらいの間に世界中で大量の石油を消費するようになったことを考えると、やはり私たちの生活が気候になんらかの影響を及ぼしていることも否めないでしょう。 それにしても、私たちが毎日「エコ」をやったとして、どのくらい温暖化の防止に役立つのでしょうか。それより世界が戦争(軍備)を放棄すれば、はるかに大きな効果があるはずです。
ついつい個人の小さな努力に矮小化されがちな最近の「なんでもエコ」の風潮について、あなたはどうお考えになりますか?
玉村豊男 エッセイスト 画家 農園主 |
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