20世紀は「ビールの世紀」といわれます。ビールは水さえ調達できれば他の原材料は遠くからでも運ぶことができるので、工場を建てて機械を揃えればどこでも稼動することが可能です。そこが農業に適した土地でなくても、工業的な装置があれば大量に生産できるお酒。そのため、工業による大量生産が進歩の代名詞だった20世紀には、世界中の多くの土地にビール工場ができました。
ワインは、ブドウが育たない土地では造ることができません。 日本でも10年ほど前のいわゆるワインブームのときには、外国から輸入した濃縮果汁に水と砂糖を加えて発酵させる「ブドウ畑のないワイナリー」がたくさんありましたが、本来のワイン造りは、ブドウを栽培する農家が自分でブドウを潰し、納屋に置いた樽に入れて保存する…… という、もともと農家の仕事なのです。
その意味でワインは、工業的な装置産業であるビールとは正反対の、その土地に縛られた、その風土しか生み出せない、他の場所ではなくその場所の刻印をしるされた、きわめて農業的なお酒と言えるでしょう。
最近、世界中の人がワインを飲むようになり、世界中のあちこちでワインを造りはじめているのは、大量生産や均一の品質を求めるのではない、それぞれに異なるたった一つの花を慈しむ、お天道様に翻弄されながら土を耕す農業が生み出す古くて新しい価値観が、心ある人に認識されるようになったからではないでしょうか。
21世紀はワインの時代。 私たちも自分の暮らしのかたちをあらためて考え直しながら、ワインの時代に思いを馳せたいものです。今回もたくさんの投稿をありがとうございました。
玉村豊男 エッセイスト 画家 農園主 |
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