20世紀の戦争から学んだ教訓
藤田正美(ふじた・まさよし)
『ニューズウィーク日本版』編集主幹
2003年8月16日
今年は、東京以北では「冷夏」というより、まるで夏がなかったような気がします。夏物商戦はまず全滅、一人笑ったのは東京電力だけでしょうか。原発に絡む不祥事で、東京電力の発電能力の四割以上を占める原発が停止して、今年もし猛暑だったら停電の恐れが大きいといわれていただけに、関係者はホッと胸をなでおろしているようです。ひょっとしたら、東京電力は温度を左右することができるのに、その事実をひた隠しに隠しているのではないかと思いたくなります。これまで猛暑を「演出」して電力需要を伸ばし、原発をガンガンつくってきたけれど、ここで問題が起きたから、ちょっと気候を操作して停電の危機を逃れた……もちろん冗談です。
異常気象もさることながら、今年ほど8月15日の終戦記念日が話題にならなかった年はなかったのではないでしょうか。21世紀になって、日本が平和的な国家として進む道が見えてきたから、58年も前の戦争のことを思い出さなくてもよくなったのでしょうか。それとも、日本が平和憲法の「呪縛」を逃れて自前の軍隊を保有する普通の国になれるというのに、あの戦争のことは都合が悪いから、思い出さないようにそっと歴史の彼方に埋もれさせようとしているのでしょうか。
残されたオプションは何か
折しも日本政府は、自衛隊をイラクに派遣しようとしています。それに北朝鮮もまだきな臭い状態が続いています。こういった問題を考えるとき、ただあの戦争を体験し、世界唯一の被爆国となった国として、「何が何でも戦争反対」「ダメなものはダメ」というアプローチは正しくないと思うのです。あの戦争を美化する(あるいは正当化する)のも、ただただ反戦を叫ぶのも、実は同じ土俵にいるのではと思えてなりません。
そうではなくて日本の行く末を考えた上で、われわれにどのようなオプションが残されているのかを議論すべきだと思うのです。もちろんそのオプションには軍事力の行使も含まれます。選択肢としてあるからすぐに軍事力を行使するという意味ではありません。そのようなオプションのうち、どれが日本にとって、そして東アジアという地域にとって、さらに世界の安全にとって、一番いいかを判断しなければいけないと思うのです。初めから、軍事力を行使するというオプションがなければ、それは外交を考える上でも大きな足かせだと思うのです。
平和は勝ち取るもの
もちろん、逆に軍事力を絶対に行使しないという国是があることを武器に、外交を展開することも可能かもしれません。しかし、そのためには、われわれが今の憲法を理想とするだけでなく、それを現実のものにするために、どのような努力をすべきなのかを十分に認識しなければならないと思います。平和は向こうからはやって来ないのです。平和はあくまでも勝ち取らねばなりません。軍事力を使わずに平和を勝ち取ることができることを、われわれ日本人が実証すれば、日本の立場はたしかに大きく変わるでしょう。しかし、そのためには、日米安保条約に代わる安全保障の在り方を模索しなければならず、短期的に現実味があるとは思えないのが残念ですが。
いずれにせよ、われわれ日本人は20世紀のあの戦争からどのような教訓を得たのか、もう一度よく考えてみる必要がありそうです。そのために僕は、あの戦争に至る歴史を勉強し直してみたいと思っています。これまでの「自虐史観」やら「反自虐史観」から離れて、もっと冷静に日本の歴史を見つめてみたいと思うのです。