
ベイルートに来て1週間たったころのこと。アパートの前に配達のトラックが停まっていた。車体の会社名と住所を眺めるうちに「読めるぞ?」。そこで初めて、それがアラビア語ではなく、日本語で書かれた、晴海にある会社の住所だと気付いた。
岐阜県ほどの国土のレバノンで、唯一の交通手段は自動車だ。一般庶民は新車には手が届かない。おのずと、機能重視、外見無視の中古車が路上に溢れることになる。
中古車はドイツ経由でヨーロッパ諸国からやってくる。乗り合いタクシーの90%以上が中古ベンツなのに対し、自家用車の出自は欧州、日本、韓国とさまざまだ。時折見かける日本語やハングル語表示の車はアジア発ドイツ経由であるらしい。

自家用車を持つ友人たちは、へこみも無視、破損部品は近所の修理屋で代用品を作って済ます。レバノンの中古車はたくしい。街中は渋滞、さながら百戦錬磨の中古車見本市だ。家族はレバノンをして「中古車の墓場」と呼ぶが、ここまで乗ってもらった車にとっても、その製造者にとっても、幸せなことではないかと思う